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賃下げを経営側に言い実現させた労働組合

先日、このBook-Rockブログで、日本国民みんな給料を3割引きなんてことはできないのだろうか?と言うエントリーを書きましが、ちょうど昨日の朝日新聞に、非正社員も正社員にする代わりに正社員の賃下げを求めた。。。。と言う記事が載ってました。

これって調べていくと昨年話題になっていたようですね。
つまり、僕が知らなかっただけかと。

他の人は知っているのでしょうが、面白かったので書き写してみました。
以下がその内容です。


「格差社会」が騒がれ始めて、もう何年もたつ。正社員の給料を削る代わりに非正社員を正社員に。そんな処方箋もすぐに思いつくけど、なかなか踏み出せないのが現実だ。
昨年10月、社員を守る側の労働組合が口火をきった。
「同じ仕事なのに待遇が違う。どう見ても不自然なことを放置すれば職場は持たない」(広島電鉄:佐古正明委員長)
環境にやさしいと再評価が進み、いまや街の顔となった路面電車。そして路線バス。117万市民の足を担う広島電鉄は地域の中核企業だ。その労働組合のトップとして経営側との交渉をまとめた。
合意したのは正社員(約1千人)、契約社員(約150人)、長く勤めても賃金が上がらない「正社員2」(約170人)の賃金制度一本化。みんな正社員となるがベテラン社員を賃下げに。10年かけて徐々に下がるとはいえ10年後は月6万円の減収になる人も出てきた。
もちろん正社員はだまっていない。「勝ち取ってきた成果を自ら捨てるのか」「労組の役割を果たしていない」と批判の嵐。経営側から全社員の給与データを引き出し、一人ひとりの賃下げの額を説いた。「どれほどの痛みを強いられるのか」と動揺していた職場は落ち着きを取り戻していく。
「技術屋らしい粘り強さをみせた」古くから顔見知りの河西宏祐・早大教授はそう評価する。

なぜ、正社員化にこだわるのか。原点は入社間もないころの記憶にあった。
工業高校を出て電車の整備工として採用された。幼い頃から機械いじりが好きで、「友達のおもちゃまで分解して怒られた」。電車の台車をネジ1本までばらして点検する仕事に、やりがいを感じていた。
だが、のめり込めない環境も職場に横たわっていた。古くからある「第1労働組合」と、会社に友好的な後発の「第2労働組合」。当時は勢力が拮抗し、激しく争っていたのだ。
選んだ独身寮がたまたま第1組合派で、そのまま加入する。職場の先輩からまず言われたのが「あいつは向こうの組合、あいさつしなくていいし、飲みにも行くな」。後輩に仕事を教えることもままならない。「仲間同士で信頼しあえないのが本当に悲しかった」
職場の分裂を何とかしたい。その思いから1990年に第1組合の専従に。3年後、第2組合との統一を果たす。

委員長になったのは2000年。翌年からバスの運転手や電車の車掌で契約社員が入ってきた。このまま増えていけば・・・答えは分かりきっている。「昔の職場に戻してはいけない」。07年夏から賃下げ容認をほのめかすと、経営側も本気になった。それから2年近くにわたる交渉で合意にこぎつける。
その手本は先輩たちが示していた。60年代からの路面電車をめぐる交渉で、経営側は廃止も視野に入れ運行本数の減少や終電の繰り上げを提案。第1組合は拒み続け、その一方で職場に対し運行時間の厳守や接客サービスの向上を求めた。やがて路面電車は黒字に。そうなると廃止を口にしない。
「5年後、10年後はどうなっているか。労組は先を見通して経営をただす役割がある」
次に続く労組は、どこか。今年の春闘の見どころでもある。


一部社員の賃下げとともに全契約社員の正社員化で昨年春に大筋合意してから10ヶ月がたちました。

新制度での賃金が実際に振り込まれるようになったのは昨年の11月から。始まったばかりなので何とも言えませんが、予想外の反応が・・・。

予想外?

賃金が下がるベテランからは、それほど文句は出ていません。定年を65歳まで5年延長することも同時に実現したからでしょう。むしろ不満を示しているのは、賃金の下がらない中堅社員。新制度で若手の賃金が上がり、中堅との差が小さくなった。先輩にすれば「自分たちは、これだけもらえるようになるのに何年もかかったのに」となる。働き盛りで人数も多い層。しっかり対応しないといけません。

では今年の春闘で?

賃金のベースアップも要求しますが、最優先するのは新制度のひずみの是正。2〜3年かけて「年功」が実感できる制度に手直しします。

ところで、今回の案は労組の幹部の間でも意見が分かれたのでは?

議論はしたけど、意見が完全に分かれたことはなかったですよ。こんな不景気で、人件費の総額を増やすような話は経営側は絶対に乗ってこない。でも、人件費のパイをどう配分するかという話なら乗ってくるでしょう。賃金の高い社員の分を下げて、低い社員を上げる。あからさまにそうは言いませんでしたが。
結局、経営側は人件費の総額も約3億円増やす決断をしました。賃下げになる社員の激変緩和期間も認めてもらい、10年かけて徐々に賃金を下げていくことになりました。

職場の団結力が増せば、経営側にもメリットになるのでは?

我々もそれを望みました。普通に働いている人の横で、「契約社員だから」と腐っている人がいる。それがなくなるだけで生産性は上がります。
何より職場が真っ二つになるのが怖かった。会社だって手を焼くんですよ。職場に何か提案しても、片方の労組がOKすると、もう片方はノーと言う。労組が二つあった頃は、バスのダイヤ改定すらままならなかった。年に1,2回はやりたかったのに、できなかったようです。これではお客さんも離れる。経営側も、当時の苦労を記憶しているから今回の提案を受け入れた面もあると思います。

非正社員の問題を放置したままの会社も多いです。

職場の分裂の怖さに気づいていないのでしょう。労組の幹部も経営者も「いまを乗り切れば」という感覚なのかしれない。非正社員の人たちは、いついまでも黙っていません。やがて「労組をつくろう」という動きが出てきます。経営者は「つぶしてやる」ぐらいの気持ちがあるのでしょうが、労働者はそんなにヤワじゃない。
労組が二つできると、社員の過半数の獲得合戦になります。労働基準法では、会社が就業規則をつくるときは、働き手の過半数が入る労組の意見を聞くように求めています。過半数をおさえていない労組はほとんど存在価値がないんです。

多くの会社では非正社員は労組の加入していません。

非正社員が増えれば、正社員を上回って過半数を超えることもある。この意味に労組は気づかないといけない。うちは契約社員も入社と同時に労組に入る「ユニオンショップ制」をとっていました。

今回の決断は他の労組にも大きな影響を与えたのでは?

いや、意外とみんな冷静に見ていますよ。たまに「講演を」と言われるけど、多くは「新聞で読んだよ」という程度。労組が自ら賃下げを申し出るなんて、やっぱりなかなか理解されない。うちでも、賃下げになる社員の妻が「契約社員はそういう契約だと知って入社したのに、途中で契約を変えるのはおかしい」と言っていました。
でも待遇に差があると、だんだん低い方に合わせるもの。会社の業績が悪化すれば、低い方の人たちは、高い方を「あなたたちが恵まれすぎているからです」と責めます。低い方が多数派になっていたら、従わざるをえないでしょう。


他の企業では、非正社員の正社員化がなかなか進みません。

企業はメリットに目を向けて欲しい。うちは乗客からの苦情が減ったと聞きました。働きがいが増して、接客態度が向上したのでしょう。労組も、権益を守るだけが仕事ではないはず。先を見据えて、経営をチェックしないといけない。場当たり主義の経営者もいますから。



なかなか耳が痛いと言う話です。

いつの間にか会社にはヒエラルキーができていて、

経営者>管理職>組合員>契約社員>パート社員>派遣社員

もしくは、

経営者>組合員>管理職>契約社員>パート社員>派遣社員

パターンは他にあるのでしょうが、経営者と管理職は経営側というひとくくりに無理にするとしても、労働者側の階層は多くなってしまったのです。良く言えば、労働者の流動化と言います・・・・・


終身雇用からアメリカ的な流動化を狙った派遣社員の範囲を拡大まで、いろいろな雇用形態を造ってきましたが、ほころびが出てきているのでしょうね。

すると、じゃあどうしたら良いのか?

この広島電鉄の試みは、非常に面白いです。