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書評、日本(汽水)紀行

汽水とは、川が海と交わった場所で、淡水と海水が入り混じった場所です。

 

魚や海の生物が育つには、非常に重要な場所になります。

 

筆者、畠山重篤さんは、東北の三陸リアス海岸である、気仙沼湾で牡蠣の漁師をやっています。

 

豊かな海に大切なのは、海水だけではありません。

 

むしろ、川が重要であり、もっと重要なのは、その上流である山です。

 

山で作られた鉄分が川を伝い海に流れることで、貴重なプランクトンが生成されます。

 

開発を続けてきた我々人間は、その大切な川を破壊し、山を切り刻んできました。

 

畠山さんは、森は海の恋人、と言う分かりやすいキャッチで森を生き返らせる運動を行っています。

本著では、大事な汽水域のことが何か所も出てきます。

 

三陸リアスである広田湾、舞根湾、気仙沼湾

北上川

陸奥湾

新潟県三面川

千葉県大原

東京湾

天竜川

諏訪湖

富山湾

宍道湖

四万十川

有明海

宮崎県日南

屋久島

そして、揚子江に舟山諸島。

 

諏訪湖は不思議ですが、ウナギの項で出てきます。

 

海と川を行きかう魚としては、ウナギや鮭が有名ですが、護岸工事やダムの建設で上がっていく川の中の道がなくなっています。

また、ダムは水をためるだけではなく、土砂も貯めていくため、その土砂でヘドロ状になったり、土砂をどけるために何年に一度土砂を下流に流さないといけないそうです。

ダムにたまったヘドロ状の土砂が川に流されていく様を想像するだけで、いやな感覚になっていきます。

 

山から楢やブナを切っていったことで、水の貯水池としての山の機能が薄れました。

もともとあった木を切った後、植えたのは杉の木です。

杉は、林業として木材を売るためならお手軽だったのですが、海外から輸入された安価な木材により、日本の杉の価値はなくなりました。

結果、林業をする人が全く少なくなりました。

水をそんなに蓄えられない杉林。

水をためられないということは、水害を引き起こしやすくなることになります。

また、長く水がとどまることで、鉄分が豊富に水に含まれることになりますが、それもできません。

挙句の果てが、スギ花粉症です。

 

何を人間はやっているのかなあと思います。

 

森は海の恋人運動は、海から森を活かそうとします。

 

こういう運動を地道に長くやることで、薄日が見えてきています。

 

日本の行政は縦割りです。

感嘆に言うと、森と川と海の管轄部署が違います。

その結果、超部分最適が起こります。

一つ一つは、いいことかもしれませんが、まとまって考えるととんでもないことが起こります。

 

先ほどの書きましたが、例えば川の護岸工事です。

 

護岸工事はなんのためにやるかと言うと、川の氾濫をなくすためです。

やり方は、川の両側をコンクリートで固めます。

結果として、魚の隠れ家がなくなります。

川から、魚がいなくなります。

 

ダムは、川の氾濫と電力を作るために作られます。

ところが、ダムで川が分断されるため、ウナギが川上へ上れなくなります。

 

山から川、そして海が自然の体系から見るとつながっています。

 

それをつながっているものとして見ることが重要です。

 

そして、川と海の間には、汽水域と言う重要な場所があるということです。

 

食とは何か、自然とは何かを考えさせてくれる著作です。