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大企業のウェブはなぜつまらないのか

昨年末にいろいろなブログで書かれていたことだが、タイム誌の2006年の「パーソン・オブ・ザ・イヤー」に「you.」を選んだ。2006年は、ブログやSNSYouTubeなどの動画投稿サイトなどに世界中の個人が情報やコンテンツを自由に発信し世界に影響を与えたということであり、個人がどれほど大事か今ほど重要視されている時代はないわけである。

本書は、現在Web上で起こっている出来事に関して、マーケティングや経営的視野の中で考察している書である。

書かれていることの多くは、いろんな書物で書かれていることの整理という感じもあり、いろんなエッセンスを入れたある意味後出しジャンケンという感じも否めないが、この1,2年のWebを取り巻くことを振り返るに適していると思う。また、著者が書いているようにシステム寄りではない書き方がされており、そういうシステム的言語にアレルギーを持つ人にとっては読みやすくなっていると思う。



さて、個別内容であるが、まず、Web2.0において注目された検索・ブログ・コミュニティ・SNSについて個人への影響が表としてまとめられている。これが既存のWebサイト等との比較もされており分かりやすい。また、この表を見ていくと個人との対話を促す仕組みの重要性が分かる。

消費行動へのプロセスについては、いろんなところで言い尽くされた感があるが、検索や共有と言うキーワードは重要であることを再認識する。

商品やモノなどの一般への浸透度に関するライフサイクルは、オタクとの境界線が図示されていて興味を引く。アーリー・アドプターとアーリー・マジョリティの間に、カズムという溝があり、それを乗り越えないと一般大衆にまで広がることはないという考察は新鮮である。本書の後半部に、パソコン所有者の比率が1987年に10%を越えてから1995年に16%を越えるまで8年もかかっているということが書かれており、オタクの所有物と見られていたパソコンが一気に普及する時点が分かる。このカズムを越えるという理論は、いわゆるパラダイムシフトが起こる時とも言われるのでないだろうかと読みながら思った。このパソコンの16%は1995年であり、つまりこの年はWindows95が発売された年である。

ネットを含む主要なメディアやチャネルを組み合わせたマルチチャネルでの例として、ホンダ自動車が出ているが、そのホンダのネットを中心とした目標は、

・自らがメディアを作って集客すること

・集まってきた潜在顧客への販売促進

・購入後6〜7年のロングレンジで持続させる顧客とのコミュニティつくり

・すべてのリアルワールドに対するネットの貢献

という事であり、自らがメディア化するというところなど、非常に良く分かる内容である。



ネットを取り巻くビジネス機会の捉え方は、非常に難しいが、理論としてはまず、アクティブ・ウェイティング戦略というのがある。これは、不確実なビジネス機会についての考え方の一つであり、ロンドン・ビジネススクール准教授ドナルド・N・サルが提唱した。言ってみれば、「活動しながら虎視眈々と待つ。」ということであろうか。

先が読めない事業環境に取り組むためには、派手な手を打つより着々と進める準備のほうが大事である。ビジョンはあいまいに、優先順位は具体的にであり、全般的な目標を定めたあいまいなビジョンを立てる。また、進むべき方向と目標は示すが、企業の行動は型にはめないことである。

IBMのガースナーは、長期的なビジョンの代わりに「黒字に戻す」「クライアント・サーバー市場に力を入れる」など5つの優先目標を示した。

もう一つは、将来に向けた調査をしチャンスやピンチの予兆である「アノマリー」をウォッチすることである。アノマリーとは、従来の理論ではうまく説明ができない市場の変化などの現象のこと。アノマリーを察知したら、顧客・市場のデータを分析し、それが示す意味を理解する必要がある。

さて、ネットの中で起こっていることに対してどこで勝負に出るかであるが、普及率16%の理論というものが参考になる。イノベーター+アーリー・アドプター=16%であり、マクロ世界では、16%を臨界点として考える。ただし、ミクロでは、もっと考察が必要。



結局、これが正しいのではないだろうか、それは、実験物理学的アプローチであり、ネットでの取り組みの方法論はまだ確立していない、やりながら体得していくというものである。

・試行錯誤を通して得られた経験やノウハウ、育った人材が生きてくる。動かないと差が開くが大きく動くには不確実。

・とすると大上段に構えてやるより実験的にやってみるほうが妥当。

・様子見を決め込むより小さくても積極的に行動した方がいい。

したがって、単年度で収益を問うのではなく、研究開発的に位置づけて長期的に実を得ると言う性格のもの。実験の積み重ねである。



繰返し機会を捉えて到達する大きな成果があり、たとえばアップルのスティーブ・ジョブズのデジタルハブ戦略では、


iTunesの発表



iPod発売



iTMS開始



Windows対応のiTunes



iPod miniiPod shuffle



iPod Photo



ポッドキャスティング



動画コンテンツ



iPhone

これを、順番に起こし、巨大なデジタル音楽市場を作り上げた。

また、現在のWebでは、CGM(Consumer Generated Media 消費者生成メディア)が非常に重要である。

積極的な情報発信への取組みが良い結果をもたらしている。たとえば悪の帝国と言われたマイクロソフトは、社員ブログを通して顧客の認識を改善させた。

と言うことであり、個人の情報やWebへの関わり方が非常に重視される時代になっていると言うことである。

大企業のウェブはなぜつまらないのか―顧客との対話に取り組む時機と戦略
大企業のウェブはなぜつまらないのか―顧客との対話に取り組む時機と戦略本荘修二

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